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超電導現象・技術の応用が期待される分野は多岐にわたっていますが、環境問題がより顕在化してきた今日、省エネルギーやCO2削減効果が期待できるキーテクノロジーの一つとして世界各国で研究開発が活発化しています。私達は、超電導応用に関する研究として、1) 医療分野:超高磁場MRI(核磁気共鳴イメージング・日本医療研究開発機構AMEDプロジェクト)やがん治療用サイクロトロン型加速器(文科省科研費:基盤研究S「次世代医療用高温超伝導サイクロトロンの設計原理と開発基盤の確立」)など、2) 電力応用分野:再生可能エネルギー対応超電導電力貯蔵装置(SMES・文科省科研費:挑戦的萌芽研究「超高貯蔵密度を実現する革新的高温超伝導コイル化技術に関する基礎研究」)など、3) エネルギー分野:核廃棄物処理を目的とする大出力加速器(文科省科研費:挑戦的萌芽研究「核廃棄物処理のための大出力サイクロトロン用超伝導コイルシステムの設計研究」)や核融合用超電導マグネット(量子科学技術研究開発機構QSTとの共同研究)など、4) 交通・運輸分野:電気推進船用超電導同期電動機など、を対象とする研究を行ってきました。
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超電導コイルの熱的安定性と保護に関する研究と、精緻な電磁場数値解析技術(独自開発)に基づく特性評価や、各種最適化手法を改良・駆使した機器設計に基づく研究が、当研究室の主要テーマ・研究アプローチの特徴・基盤として引き継がれてきました。
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1.がん治療用高温超電導スケルトン・サイクロトロンの開発
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がんは今「治る病気」となりつつあります。しかし、がん患者の1/3が初診時にすでに隣接臓器への浸潤や遠隔転移が見られる「進行がん」に侵されており、これらの患者の5年相対生存率は依然15%以下に留まっています。私達は、RI(RadioIsotope)内用療法の中で、進行がんへの効果が期待されている「アルファ(α)線内用療法(核医学治療)」の普及の鍵となるα線放出RI(ここでは211At:アスタチンを対象)の多量・安定・分散生産のための超小型・高強度・エネルギー可変(世界初)の加速器「高温超電導スケルトン・サイクロトロン(「HTS-SC」と略記)」の開発を目指しています。RI内用療法の歴史は古いですが、α線放出RIを用いた内用療法は、2016年から国内で適用が始まったばかりの治療法で、全身に転移し散らばっているがん病巣を捕え殺滅させることができる「進行がん治療の道を拓く治療法」として期待されています。私達が対象としているα線RI(211At)は、半減期が7.2時間、飛程が約55μmと短いため、正常細胞への影響や患者への負担が少なく、特別な治療病棟が不要であるなどの大きなメリットがある一方、半減期が短い分、その生産拠点を病院の近く、あるいは病院内に設置する必要があります。従って今後のα線核医学治療の適用拡大の鍵を握るのが、211Atを安定的に製造・供給でき、大規模な建物・施設を必要としない超小型・高強度出力の加速器であり、その実現の起点となり得るのが「高温超電導スケルトン・サイクロトン(HTS-SC)」ということになります。「スケルトン」という名は、複数の空芯REBCOコイルから成るマルチコイルのみでイオンビームに必要な高磁場・高精度磁場を形成するところから名付けました。これにより、世界初の出力エネルギー可変のサイクロトロンが実現でき、同一装置で、α線放出RIに加え、PET用RIの製造など多機能化が可能となります。REBCO線材は、現状、最も優れた超電導特性(高温・高磁場中で高い臨界電流を維持)を有している高温超電導線材です。現在、1/2スケールのプロトタイプREBCOコイルシステムの製作を終え、冷却・通電特性の評価試験を実施しています。
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2. 超高磁場全身MRI用REBCOコイルシステムの開発
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MRI(磁気共鳴イメージング)は、放射線被爆が無く、全身にわたって鮮明な3次元画像が得られる診断装置であり、がんの早期発見への期待から、超電導機器の中で最も広く普及しています。私たちは、国家プロジェクトのもと、7T以上の高磁場化によるS/N比・空間分解能の向上と高機能化を目指して、REBCO線材を用いた小型・超高磁場(9.4T)MRI用コイルシステムの開発を進めてきました。
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3. 超電導電力貯蔵(SMES)用高温超電導コイルシステムの開発
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原子力発電の制限や低炭素社会の構築に対する方策として、風力や太陽光などの再生可能エネルギー発電が注目を集め、様々な研究開発が進められています。再生可能エネルギー発電の大量導入に当たっては、大容量・高貯蔵密度の蓄電設備が不可欠となります。SMESは長寿命且つ大電力の瞬時応答が可能という特長を有していますが、貯蔵密度がLiイオン電池等と比べ劣っています。そこで私達は、Liイオン電池と同等以上の性能・貯蔵密度を達成するための革新的コイル化技術の開発を進めています。SMESには、Liイオン電池に比較して、1) 繰返し充放電による劣化・制約がなく、2) 貯蔵エネルギーに対して充放電率を高く設定可能であり、且つ、3) 出力と貯蔵容量の自由度が高いというアドバンテージがあります。従って目標とするSMESが実現すると、その適用範囲が大幅に拡がり、その結果、再生可能エネルギーの導入・拡大を促進することが可能となると考えています。
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低温金属系超電導コイルでは成しえなかった性能を有する高温超電導コイルを実現し、未踏ステージでの応用展開を切り拓くための高温超電導コイル化技術を確立することを目的として、「5-High:高機械強度・高電流密度・高熱的安定・高磁場・高精度磁場」を可能とする基盤技術開発に注力しています。
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1) 高機械強度化による高磁場化・高電流密度化を可能とする技術
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大口径のコイルで高磁場を発生させるには、強大な電磁応力に抗する機械強度が必要となります。機械強度が高められなければ、いくら線材性能の向上を図ってもそれを活かすことはできません。そこで「YOROIコイル構造」を適用・発展させた高機械強度化技術の開発を進めています。これにより、より高い電流密度での設計ができ、その結果コイルの高磁場化・小型化、使用線材量の低減・低コスト化が可能となると考えています。
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本来二律背反の関係にある高電流密度化と高熱的安定化を、高機械強度化とともに成り立たせ、高磁場化・小型化に結びつける方策として「無絶縁コイル(NIコイル)技術」の適用に向けた検討を行っています。NIコイルは、銅安定化層を巻線内で共有できるため、高熱的安定化を確保しつつ工学的臨界電流密度を高められます。また線材のIcのばらつきや、巻線中に接続部や一部劣化があっても電流が隣接する線材に迂回することができるので、線材の歩留まりの制約が緩和され、使用線材コストの大幅削減が期待できると考えています。NIコイル開発の課題として、適切な層間接触電気抵抗を実現・制御する技術の確立、NIコイルのための安定性評価基準の確立、クエンチ検出と保護法の確立、複数のNIコイルから成るマルチコイルシステムの挙動(特に常電導転移時の電磁的・機械的相互作用)の把握などに取り組んでいます。NIコイルは、電磁気的・熱的振舞いが極めて複雑です。そこで、PEEC(Partial Element Equivalent Circuit)モデルを用いた電流分布解析と有限要素法に基づく温度分布解析を連成した数値解析プログラムを開発しました。これによりNIコイルの過渡的振舞いを解析・可視化評価できるようになりました。
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加速器やMRI用超電導コイルシステムの発生磁場には、高い空間分布精度と時間安定度が要求されるため、コイル巻線誤差、冷却時の熱応力と励磁時の電磁応力によるコイル変形、超電導線材内に誘導される遮蔽電流に起因する不整磁場をできるだけ低減する必要があります。これらの中で、現在遮蔽電流による不整磁場対策に注力しています。これまで、REBCO線材を対象に線材内の遮蔽電流と発生する不整磁場を精度よく解析するための三次元非線形過渡電磁界解析プログラムを開発(有限要素法+境界積分方程式法+高速多重極法)し、実験結果との比較により高い精度での解析が可能であることを確認しました。これにより線材内の遮蔽電流分布を正確に可視化・把握できるようになりました(MRI用コイルシステムの遮蔽電流磁場の影響評価など)。そこで現在、数値解析と検証実験により、遮蔽電流による不整磁場低減のための方策を探っています。具体的には、銅メッキ付多芯REBCO線材の適用や、over-shoot法等の通電電流制御法、コイル形状・位置の最適化などについて検討しています。
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